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記号創発システムを通じて今話題のチャットAIや生成AIについて議論する

記号創発システムとは、生物や人間の知能を、記号と意味の自律的な創発過程として捉える理論的な枠組みを構築することを目的としています。
つまり、人間は環境との相互作用を通して意味を生み出し、適応的に行動しているということです。

今回は、記号創発システムやそれをロボディクスに応用した記号創発ロボティクスについて学ばせていただく機会があったので、なるべく噛み砕いて説明したあとその魅力紹介します。

記号創発システムと記号創発ロボティクスについて

記号創発システムは、シンプルなルールに基づいた個々の人間(もしくはそれ以外の動物、AI)の相互作用から、複雑な意味や行動が自律的に生み出され、記号と結び付けられるシステムです。

こちらの概念図で示したように記号創発システムは私たち個人間のミクロな相互作用と、集団全体としての相互作用によって支えられています。
例えば、「🍺」に名前がまだないと仮定します。図の"組織化"は「🍺=ビール」のように個人間のコミュニケーションでの意味づけが広まっていく様子、逆に制約は「🍶=日本酒」と辞書に載っている、決められている場合はそれに従う必要があることを示しています。

ここで大事なのは言語を支えているのは「辞書」などに制約されるだけでなく、「🍺=ビール」のように記号を創発する役割も私たち人間はになっているという点です。私たちがこれまで目にしてきたロボットは人間の「辞書」や決められたプログラムに基づいて会話や行動をとっているため、私たちとはコミュニケーションを取れているように見えてもロボットは記号創発システムに参加していないのです。

そこで私たちの記号創発システムに参加できるロボットを作ろうということで考えられたのが記号創発ロボティクスです。記号創発ロボティクスは、人間のように環境と相互作用し、新たな意味や記号を創出できるロボットを実現することを目指しています。
ただ、ロボットが私たちの記号創発システムに参加するには知能もセンサーもアクチュエーターもあまりに違いすぎます。そのため、文系理系さまざまな学問の人が協力して記号創発ロボティクスに取り組んでいます。講義では生物学、心理学、哲学、機械工学、情報学などさまざまな分野の方が、記号創発システムと記号創発ロボティクスについてお話を聞かせていただきました。

記号創発システムと記号創発ロボティクスの魅力について

私の考える、記号創発システムと記号創発ロボティクスの1番の魅力は「生成AIと共生する心の準備ができる」ということだと思います。ここから10年, 20年は生成AIがより私たちの生活に深く関わってくることはチャットGPTの台頭やAI搭載デバイスの登場で実感できると思います。

ただ、それらの大規模言語モデルは私たちの会話とは全く違うことや、鉄腕アトムやドラえもんのようなコミュニケーションのできるロボットは作れるのか?という疑問に真剣に向き合える学問は現状あまり多くないです。ロボットとコミュニケーションを取ることが未だにSFのように思われてる中、この学問は一歩先をいくものです。

そのため、生成AI時代に身につけたい教養の第一歩として記号創発システムを勉強することをおすすめします。記号創発システムと通して、正しく生成AIと向き合い、活用できるようになると思います。正しく生成AIと向き合うというのは、過剰に恐れずに、適切に活用できるということです。不安を煽るようなメディアの報道や怪しいAIを語る商品に騙されないためにも教養として身につけるべきです。

谷口忠大さんの出している「コミュニケーションするロボットは創れるか」という本も講義に合わせて読んだのですが記号創発システムを理解するのに役立ちました。この本では、記号創発システムの基本概念から、具体的な応用例、今後の展望まで、わかりやすく解説されています。記号創発システムに興味を持たれた方にはおすすめの書籍です。

まとめ

今回は記号創発システム, 記号創発ロボティクスについて軽い紹介と魅力の紹介をしました。要点は以下の通りです。

  • 記号創発システムは人々のミクロ・マクロ・ループによって成り立っており、私たちもそれに参加している。
  • 現状のロボットや生成AIは記号創発システムに参加できていない。
  • 記号創発システムに参加できるロボットを作る記号創発ロボティクスが今後の注目点。

参考文献

谷口忠太「コミュニケーションするロボットは創れるか」,叢書コムニス13出版

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